こんばんは。
有難いことに、私たちの会社は無事に第1期を終えることができました。
とはいえ、決して平穏無事な道のりだったわけではありません。
むしろ、大小さまざまなトラブルが次々と押し寄せ、日々対応に追われる毎日でした。
この1年間で経験した数々の出来事については、また改めて記事にしたいと思います。きっと、これから会社を立ち上げようと考えている方々の参考になるはずです。
それでは本題となります。
本記事は、私が自社で新たに製品開発に取り組んだ経験と、
コンサルタントとして多くの企業の経営・組織課題に関わってきた経験をもとに、
「なぜ、構造的に整理されていなくても成功する企業があるのか?」
という問いに向き合い、そこから見えてきた行動原理を整理したものです。
実は、自らプロダクト開発を進める中で、
初期段階ではあえて戦略や設計をロジカルに整理せず、直感と行動を優先したところ、
意外なほどスムーズに仮説検証が進み、成果につながるという経験がありました。
同時に、これまでコンサルティングの現場で見てきた多くの企業でも、
綿密に構造化した戦略があっても「なぜか動かない」組織と、
計画が曖昧でも“なぜか強い”組織があることに、以前から違和感を抱いていました。
この両者の差を言語化し、再現可能な形に落とし込むべく提案するのが、
Unstructured Success Model(USM)という考え方です。
──Unstructured Success Model(USM)が描く、構造なき強さの原理と実践
「整っていないのに、なぜか強い組織には理由がある」
■ この問いは、現場とコンサルの“あいだ”で生まれた
私はこれまで、
・自社で製品開発の現場に立ち、意思決定し、実行する立場
・同時に、多くの企業を支援するコンサルタントとしての立場
の“両方”を経験してきました。
開発の現場では、「仮説を完璧に整理する前に、とにかく動いてみる」ことでしか見えないものが多くありました。
一方、コンサルの現場では、「構造化やロジックをどれだけ整えても、結局動かない」という瞬間にも何度も立ち会ってきました。
戦略は正しいのに、なぜか成果が出ない。
一方で、戦略があいまいでも成果を出し続けている現場がある。
この矛盾から、「構造がないのに強い組織は、なぜそれでも機能しているのか?」という問いが生まれました。
そして、構造化・計画・正しさよりも、
「動けること」自体が強さになっていると気づいたのです。
その気づきをモデル化したのが、
Unstructured Success Model(USM)です。
(私が命名したものですが、すでに似たようなのがあったら恥ずかしいのでコメントでそっと教えてください。)
■ はじめに:「考えたのに動かない組織」が増えている
- 完璧な分析
- 論理的な戦略設計
- 合意形成済みの実行計画
…それでもなぜか、現場が動かない。結果が出ない。
一方で、こういう会社も存在します。
- 計画はざっくり
- 資料も文化も「よく言えば自由」
- でも、めちゃくちゃ成果を出している
いったい何が違うのでしょうか?
■ 整理しないまま成功している企業たち
【ユニクロ】
- 柳井正氏の「直感」と「現場主義」が判断の軸
- 綿密な計画よりも、実行と数字に基づいて即座に修正
- 組織全体に「常に自分で動く」が染みついている
言葉ではなく、文化とスピードで動く巨大なオペレーション
【Apple(スティーブ・ジョブズ時代)】
- 顧客の声ではなく、自分たちの“信じるもの”をつくる
- ビジョンが組織全体の判断基準になる
- 行動と思索が一致したプロダクト主導型文化
正しさよりも、確信。構造よりも、直感。
【Dyson】
- 発明を起点に事業を組み立てる逆構造
- 顧客ニーズではなく技術とクラフトマンシップ
- 5,000回以上の試作を「無駄」ではなく「学び」として評価
失敗しながら進むのが前提。失敗が“評価される対象”になる。
【リクルート(90年代〜2010年代前半)】
- 「勝手にやってみて、うまくいったら事業化」の文化
- 失敗しても評価を下げない。むしろ学習量で評価
- 明文化された戦略よりも、動いていることが重視される
成功の裏にあるのは、失敗を恐れない仕組み。
■ 共通している原理:構造より「動き出せる環境」
こうした企業に共通しているのは:
- 強いビジョンがあり
- 自律的に現場が判断でき
- 動いた結果から学習できる仕組みがある
つまり、思考を“整理しなくても”動ける構造があるということです。
■ だからUSM(Unstructured Success Model)という考え方が必要になる
USMは、「構造に依存せずに、組織が動ける状態を再現可能にする」ための設計思想です。
USMを構成する5つの原則(USM-5)
1. Vision Anchor(ビジョンの錨)
- チームや組織の全ての判断が立ち返る、思想・目的・世界観を明確にする
- KPIより「これって自分たちのビジョンに合ってる?」を重視
実践例:
チームで対話して、「私たちが何を実現したいか」を10〜15語以内に明文化。
週1で「この1週間、ビジョンに沿った行動ができたか?」を振り返る。
2. Action First(行動優先原則)
- 「正しいかどうか」より、「まず動いてみる」を推奨する文化
- 完璧な計画より、未完成の行動の方が価値がある
実践例:
「今週1件でも新しい施策を動かしたか?」を評価基準に。
Slackに“やってみた報告”専用チャンネルをつくる。
3. Distributed Judgment(判断の分散)
- 上司や会議を通さず、現場が判断・修正できる構造
- 「承認」が不要な項目リストを明確にし、責任と裁量を同時に委ねる
実践例:
◯万円以下は承認不要、などの“自律判断リスト”を整備。
マネージャーは「決裁者」から「壁打ち役」へシフト。
4. Cultural Sync(文化の同期化)
- 組織の中で、言葉にしなくても価値観が共有されている状態
- ミスを責めない、挑戦を称賛する、などの“当たり前”を言語化
実践例:
週1で「うちの文化らしい判断って何だった?」をチームで共有。
Slackに「判断の背後にある価値観メモ」を蓄積。
5. Feedback Tightness(フィードバックの密度)
- 行動と学びの距離を短く保ち、「動いた分だけ成長」できる設計
- 成功か失敗かよりも、「何を得たか?」が最重要
実践例:
週1のTry/Fail/Learn共有タイムを設ける(所要15分)。
「結果」だけでなく「学習ポイント」も評価項目に。
■ USMが大事にするのは「失敗からの学び」
USMは失敗を“許す”のではなく、失敗を“活用する”設計思想です。
- 失敗したことではなく、そこから何を学んだか
- 動けなかったより、動いて失敗した方が価値がある
- 評価はKPIだけでなく、判断のスピードと質でも行う
学習できる失敗こそ、組織の資産です。
■ 構造化そのものを否定しているわけではありません
ここであらためて明確にしておきたいのは、
USMは「構造化」や「戦略」「KPI」「会議体」「フレームワーク」などを否定する考え方ではありません。
むしろ、それらは必要なタイミングで、必要なだけ導入されるべきです。
ただし、重要なのは順序です。
多くの組織では、「まず構造化してから動こう」としますが、
USMではその順序を逆に捉えます。
「まず動く。そして、動いた結果や学びに応じて構造を設計する」
この順序に切り替えるだけで、意思決定のスピードも、現場の納得感も、行動の質も劇的に変わります。
USMは、“構造が不要”と言っているのではなく、
“構造に依存せずに動ける組織”をつくることを目指しています。
▷ だからこそ、構造は定期的に「見直す」対象になる
組織にとって構造や仕組みは不可欠ですが、一度設計したら終わりではありません。
たとえば、四半期ごとに以下のような問いを立てて、構造をアップデートしていくことが重要です:
- 今期、なぜ成功したのか?偶然か?文化か?
- 判断と行動にズレはなかったか?
- ビジョンとKPI、現場の動きに乖離は生じていないか?
- 構造は、今のフェーズに合っているか?
この「構造の更新力」こそ、USMの本質とも言えます。
■ 「それって属人化しないの?」という問いについて
ここまで読んでいただいた方の中には、
「構造に頼らずに動けるようにするのはいいけど、それって属人的にならないか?」
という疑問を持たれるかもしれません。
これはごもっともな懸念です。
しかし、USMの設計思想は、むしろ“属人化を回避するために構造を後づけする”というアプローチを取ります。
属人化とは、「個人に依存してしまう状態」を指します。
それは、ルールやマニュアルがないから起こるのではなく、
行動や判断の背景にある“思想や判断基準”が共有されていないときに起きるのです。
USMが重視するのは、「共通言語と共通判断軸の浸透」です。
- なぜその判断をしたのか?
- どんな前提で動いたのか?
- どのビジョンや価値観に基づいているのか?
こうした思考の“起点”をチームで継続的に言語化・共有していくことによって、
人ではなく「判断の原理」に組織が依存する状態を目指します。
▷ 属人化を防ぐUSM的な実践例:
- Try/Fail/Learnの共有で、判断の文脈を可視化する
- SlackやNotionに「なぜそう判断したかメモ」を残す文化をつくる
- 週次のチーム対話で「今週の判断で一番良かった理由」を言語化する
- メンバー交代時に“価値観”の継承を優先して行う
属人化とは、構造の不在ではなく、対話と共有の不在によって起きます。
USMは、行動を起点にしながらも、文化・ビジョン・判断軸を同期させることで、属人化を防ぎます。
■ 自社事例:犬用空冷服の開発にUSMを適用
私自身が取り組んでいる犬用の空冷服(ペット向けウェアラブル冷却ギア)の開発でも、このUSM的なアプローチは非常に実践的に活きています。
プロジェクトの初期には、綿密な市場調査や競合分析、特許リスクの確認、
さらには環境変化や社会的背景(気温上昇・熱中症リスクの高まりなど)も踏まえ、
「このアイデアが社会に必要とされるか」「市場に受け入れられるか」の根拠を徹底的に検証しました。
ただし、そこから先の「どう開発を進めるか」という計画については、
あえて緻密に構造化しすぎず、早期に試作品をつくって市場の反応を見ることを優先しました。
たとえば、
- 最初の冷却構造は社内で手作りしたパーツで組み立て
- 飼い主のフィードバックをもとに週単位で改善
- 冷却効果や着せやすさは、散歩の実地テストで逐次検証
こうしたプロセスを通じて、動きながら学ぶ → そこで得た学びを構造化するというUSMの思想が、スピードと柔軟性を両立したプロダクト開発を可能にしてくれました。
現在では、チーム内で「どこまでを自律判断で対応できるか」「判断の拠り所は何か」なども自然に共有されており、属人化せずに改善サイクルが回る設計が機能しています。
■ USMはリーンスタートアップとどう違うのか?
ここまで読んで、「USMってリーンスタートアップと似ているのでは?」と感じた方もいるかもしれません。
確かに、「動きながら学ぶ」「最初から完璧を求めない」といったアプローチには共通点があります。
ただし、USMは単なる開発手法ではなく、組織全体の思考と行動設計に関わる“文化的フレーム”です。
以下のような違いがあります。
🔹 リーンスタートアップが目指すもの
- 顧客課題の仮説検証を高速に反復してPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成する
- プロダクトの成功確率を上げるための「最適な学びの回し方」
- 主に新規プロダクトやサービス開発の初期段階に強くフィット
🔸 USMが目指すもの
- 組織全体が「思考を構造化せずとも動ける」ようにする
- 判断の文化/価値観の同期/構造に依存しない運営力を再現可能にする
- プロダクト開発に限らず、既存事業・採用・マネジメント・戦略実行など組織全体に適用できる
つまり、リーンスタートアップが「プロダクトの開発手法」であるのに対して、
USMは「動ける組織体質そのものを設計する思想」です。
リーンは「仮説を早く回す方法」だとすれば、
USMは「仮説があってもなくても、動きながら学び続けられる構造」をつくる考え方です。
両者は対立するものではなく、むしろ補完関係にあります。
USM的な文化の上にリーンスタートアップを実行すれば、より強い実行力と学習力が育まれるはずです。
■ まとめ:「構造」ではなく「動ける仕組み」をつくる
- 整っているのに動けない組織
- 整っていないのに動いている組織
両者の違いは、「構造」ではなく、
動いてから考えることを許容しているかです。
Unstructured Success Model(USM)は、構造の有無ではなく、
行動の再現性と判断の自律性を支えるための新しい考え方です。
■ 最後に:これはAIにはできない、人間の行動の話です
この記事は、生成AIの力も借りながら、私自身の経験や思考を整理・言語化することで形になりました。
しかし、ここで述べてきた「構造に依存せず、行動しながら学ぶ組織をつくる」というUSMの本質は、
どれだけAIが進化しても、それだけでは実現できない「人の意思と行動」の領域です。
重要なのは、フレームワークでも理論でもなく、
「自律した組織をつくりたい」という想いを持った人が、一歩を踏み出すこと。
正直に言えば、私自身もこのUSMという考え方にたどり着いたのはまだ最近です。
だからこそ、「この思想を完全に体系化して提供します」という段階には至っていません。
むしろ、このモデルを一緒に実践しながら育てていける仲間が現れることを願っています。
もし少しでも「この方向性に興味がある」「まず何か小さく試してみたい」
そう思っていただけた方がいれば、
お気軽にお問い合わせください。
コメント